
阪井 裕一郎
1981年、愛知県生まれ。福岡県立大学人間社会学部専任講師。博士(社会学)。専攻は家族社会学。著書に『事実婚と夫婦別姓の社会学』(白澤社)、共著に『社会学と社会システム』(ミネルヴァ書房)、『入門 家族社会学』(新泉社)、『境界を生きるシングルたち』(人文書院)、共訳書にエリザベス・ブレイク『最小の結婚――結婚をめぐる法と道徳』(白澤社)など。
1990年代まで「結婚」や「家」と密接な関わりがあった仲人は、どのように広まり定着したのか。また、なぜ衰退して現在では見られなくなったのか。
明治時代以前の村落共同体では見合いが浸透していなかったが、教育勅語や家制度によって仲人が急速に普及する。明治期の家族主義と個人主義、大正期以降に登場する恋愛などとのせめぎ合いのなかで、見合い結婚が「正しい結婚」として位置づけられ、強固に維持されたことを史料を渉猟して明らかにする。
また、明治期に民間の結婚相談所が設立されたが、戦時下の人口政策に組み込まれ厚生省が結婚媒介を統制するに至って、優生思想とも接続しながら全国に結婚斡旋網が形成されたことも掘り起こす。
そして、戦後の民主化や高度経済成長によって見合い結婚は封建的と見なされるようになりながらも、仲人は恋愛結婚や職場結婚と折衷して1990年代まで存続し、2000年代に消滅するプロセスを跡づける。
村落共同体、家、国家、企業と、時代ごとに個々人の帰属先と密接に結び付いてきた仲人の近・現代史から、近代日本の家族や結婚をめぐる価値観の変容を照射する。