君島 彩子
1980年、東京都生まれ。総合研究大学院大学文化科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員。物質宗教論、宗教美術史を専門とする。共著に『万博学――万国博覧会という、世界を把握する方法』(思文閣出版)、学位論文に「平和祈念信仰における観音像の研究」(第15回国際宗教研究所賞・奨励賞受賞)、論文に「平和モニュメントと観音像――長崎市平和公園内の彫像における信仰と形象」(「宗教と社会」第24号)、「現代の「マリア観音」と戦争死者慰霊――硫黄島、レイテ島、グアム島、サイパン島の事例から」(中外日報社、第15回涙骨賞受賞)など。
観音像はいかに平和を象徴する存在として広く認識されるようになったのか。近代以降に美術概念の影響を受け制作されるようになった観音像は、寺院や墓地のように従来から仏像が設置されてきた空間だけではなく、公園などの公共空間にもモニュメントとして建立された。戦前から戦時期には興亜や戦死者慰霊の観音像が多く建立され、大東亜共栄圏を象徴するモニュメントという時代性も背負うことになった。
戦後、戦争死者の慰霊や地域の復興などを目的に、観音像は平和を象徴するモニュメントに姿を変えていき、ランドマークとなる巨大な観音像も作られていった。また、平和観音の寄贈活動、硫黄島やレイテ島に建立されたマリア観音など、ほかの尊格の仏像とは異なるユニークな活動もみられるようになった。
戦争や社会状況、人々の信仰や思いを背景に時代ごとに性格を変えながらも、平和の象徴として共通認識されることでモニュメントとして独自の発展を遂げた観音像の近・現代史を描き出す。