小川 明子(オガワ アキコ)
1972年、愛知県生まれ。立命館大学映像学部教授。専攻はメディア論、コミュニティメディア研究。著書に『デジタル・ストーリーテリング――声なき想いに物語を』(リベルタ出版)、 共著に『ケアするラジオ――寄り添うメディア・コミュニケーション』(さいはて社)、『日本のコミュニティ放送――理想と現実の間で』(晃洋書房)、論文に「ニュース砂漠とメディア・リテラシー――ジャーナリズムのリソース調達という視点から」(「メディア情報リテラシー研究」第4巻第1号)、“From Self-help to Self-advocacy for People with Disadvantages: Narrating Problems through Japanese Community Radio”(Community Development Journal, bsac15)など。
病院内の小さなスタジオで放送されるホスピタルラジオ。サンドウィッチマンが出演するNHK『病院ラジオ』で日本でも知られるようになったが、発祥の地イギリスではすでに大病院の多くで設置し運営している。そもそも、なぜ病院内でラジオ放送が始まったのか。声のメディアは、どのようにしてケアの役割を担っているのか。
イギリスのホスピタルラジオの歴史や事例を押さえたうえで、日本の藤田医科大学のホスピタルラジオを紹介する。ボランティアが放送し、患者がベッドサイドで耳を傾け、医療従事者や当事者リスナー同士のコミュニケーションも促進する「ケアするメディア」の実践を描き出す。
また、ホスピタルラジオにとどまらず、高齢者や依存症患者の孤立を防ぐ音声メディアの事例も取り上げ、閉じられた空間に暮らし、社会から排除される人々をゆるやかにつなぐ声がもつ可能性を検証する。
本書では、これまで研究が手薄だったラジオとケアをめぐって、患者や医療従事者だけでなく、社会の周縁に生きる人々を包摂し、コミュニケーションを促し、相互にケアをしあえる環境を作り出す可能性や、音声メディアを介したケアの倫理を展望する。