
李瑛恩(イヨンウン)
1984年、韓国・ソウル生まれ。日本大学芸術学部映画学科演技コース卒業、日本大学大学院芸術学研究科修士課程修了、同博士課程修了。専攻は日本統治下朝鮮映画・演劇・女優論。論文に「日本統治下朝鮮における女優形成の史的研究――女優・文藝峰を中心として」(日本大学博士論文)。2006年に韓国でイ・アイの芸名で芸能界デビュー。出演した映画に『大韓民国1%』『ダイナマイト・ファミリー』(日本公開タイトル)、ドラマに『私も行く』『太王四神記』『ドラマスペシャル――梳き櫛』『自由人李会営』『大王の夢』『一途なタンポポ』など、演劇に『私の心の中に全盛期』。
日本による植民地統治下の朝鮮で、国民的女優として活躍した一人の朝鮮人映画女優がいた。
彼女の名は文藝峰(ムンイェボン)。舞台女優だった彼女は、その自然な演技力と「朝鮮的」な容貌を見いだされ、朝鮮映画に数多く出演し、たちまち国民的な銀幕スターになっていった。
「朝鮮のマレーネ・ディートリヒ」「3千万人の恋人」とも称された彼女だが、動員の重要な手段として映画が利用された戦時体制下で日本帝国主義の宣伝映画に最も多く出演し、銀幕でイデオロギーを広める最前線に立つことにもなった。
映画の内容も言語も人材もすべてが日本の支配下に置かれていくなかで、日本への「抵抗」と「協力」のはざまにいた文藝峰。朝鮮の独立後は日本帝国主義に与した映画人として非難にさらされたことで北朝鮮に渡り、そこで再び国家の思惑に組み込まれていく。
太平洋戦争や朝鮮半島の南北分裂など、時代に翻弄され続けた彼女の人生を、植民地の映画施策と朝鮮映画の表現を精緻にひもときながらたどり、「朝鮮国民女優」の葛藤を明らかにする。