丸山 友美(マルヤマ トモミ)
静岡大学学術院情報学領域専任講師。専攻はメディア文化史研究、メディア論、プロダクション・スタディーズ。共著に『NNNドキュメント・クロニクル 1970‐2019』(東京大学出版会)、『国道16号線スタディーズ――二〇〇〇年代の郊外とロードサイドを読む』(青弓社)、論文に「女性ディレクターから見た初期テレビ制作の現場――フェミニスト・エスノグラフィーを用いたアーカイブ研究」(「メディア研究」第101号)、「ラジオ・ドキュメンタリー「録音構成」の成立――NHK『街頭録音』と『社会探訪』」(「マス・コミュニケーション研究」第95号)など。
1957年からNHKで放送されたテレビドキュメンタリー・シリーズ『日本の素顔』は、戦後社会で映画とは異なる新たな表現を切り開いた。初期テレビ制作現場に集った人々はどのようにテレビドキュメンタリーを創造し、どのように『日本の素顔』を作り上げていたのか。
本書では、放送アーカイブを活用して現存する『日本の素顔』を視聴し、当時の資料を渉猟し、関係者へのインタビューを積み重ね、当時の制作現場での試行錯誤や模索、様々な実践に光を当てて、テレビドキュメンタリーという表現形式の独自性を明らかにする。
具体的には、大阪中央放送局の番組制作の実態、制作現場で立ち上がる規範や葛藤、『日本の素顔』唯一の女性プロデューサーの実践などから、東京中心の初期テレビドキュメンタリー史に東京/大阪、男性/女性、エリート/アシスタントという視点を挿入して、『日本の素顔』の複数性と重層性を浮き彫りにする。
これまでの初期テレビドキュメンタリー史では十分に記されてこなかった番組制作の営みや、ドキュメンタリーという表現が内包するグラデーションを可視化する労作。